ランナー大迫傑氏が「豊洲市場で面白い人を見つけました」ということで会いに行ってきました。

足立 (A): お名前を教えてください。

久保埜 (K): 久保埜勇貴です。(クボノ・ユウキ / 株式会社やま幸)

A: 大迫選手との出会いというのは?

K: 2019年の9月頃に大迫さんが豊洲市場の見学をされにいらっしゃったんですよ。その際に僕が大迫さんをご案内をさせていただいたというのが最初の出会いです。

A: 大迫さんの印象は?

K: 僕も元々陸上を学生時代やっていたっていうところもあって、もちろん大迫さんの存在は知っていたんですよ。なのでスター選手の大迫さんが目の前にふと突然現れたので、「うわっあの大迫さんだ!」と興奮したのをしたのをすごい覚えていますね。

A: 久保埜さんの豊洲市場においての仕事について教えていただけないでしょうか?

K: 今僕がやっているのがマグロの仲卸という仕事なんです。世界中で漁師さんが釣り上げたマグロが、豊洲市場の方に集まってきます。その集まったマグロが競りにかけられます。そのマグロたちをですね、目利きをしまして、競りにてマグロを競り落とし、その1本のマグロをひとつのお店が全部使われるということはないので、お寿司屋さんですとか、飲食店さんが1匹のマグロを切り分けて、そのお店に適したマグロを出荷する、納品するというところが、僕ら仲卸の役割になります。それが仕事です。

A: その仕事と毎日向き合う中で、難しさというのは何かありますか。

K: 僕らが今メインで取り扱っているものが、天然の本マグロということもあり、やっぱり天然の生き物ですので、海がしけてしまうと、マグロの水揚げがなくなってしまったりがあります。また春先から夏に向けて、マグロが産卵期を迎える時期があるんですけれども、その時期ってもうマグロが産卵に対してエネルギーを使うことによって、マグロの身に力がなくなり、痩せ細ってしまったりだとか、脂が抜けてしまいます。つまり食べ物としての美味しさを失ってしまうような時期があります。そういった時期でも、マグロはお寿司屋さんにはなくてはならない食材ですので、必要とされるマグロのオーダーに対して、その品物を調達する、納品しきるっていうところが、非常に難しいミッションですね。

いいマグロをお客様に届けるというのが大切になってきます。「いいマグロ」とは何をもってして「いいマグロ」なのかを把握することが大事です。例えばお寿司屋さんでしたら、そのお店・職人さんの好みによって、その「良い」の定義が変わってくるようなところがあります。

実際にそのお店に食べに行って、そのお店のシャリを知って、そのシャリに合うマグロを、選ぶことのできる状態や準備をするということです。納品先の相手の好みを知るということですね。

A:  良いですね。相手を知る。

K: それが一番難しいです。我々が良いと思って提案したものがやはり良くないと言われるようなケースもあるんです。ましてや取引が始まったばかりのお店は、相手方の好みがまだ掴めてない状態からスタートしますから、お話の中でどういったマグロが良いですかってヒアリングのようなものを行なった上で出荷作業はします。お客様が頭で思い描いているものを言語化していただいて、それを我々で解釈して、投げたボールが違っていたりもあります。やっぱり1年を通してマグロを納めさせていただく中で、良いマグロを納めた時は良いリアクションがあったなとか、こういったマグロはダメなんだなとか、そういった経験値を日々積み上げながら精度をあげていくようなところがあります。

A: なるほど。チャレンジや困難をどんな風に乗り越えてるんですかっていうのが次の質問だったんですけど、天然のマグロとお客さんと向き合いながら、知ることに努力して、経験を積んで精度を上げていくということですね。

K: そうですね。僕らがマグロという食材に対しての理解を深めるっていう前提が必要になってくると思います。マグロといっても味わいの特長が色々とあります。その漁法にも違いがあります。どこでどうやって捕られたマグロなのかなどいろいろな分岐があり、最終的にマグロの味わいが決まったりするようなところがあります。最終的には、そのマグロが何を食べてきたかっていうところに、食材の味わいが依存する傾向にあります。

A: マグロの世界、深くて面白いですね。

K: そうなんですよ。例えば一番有名な産地でいいますと、大間。

A:  聞いたことあります。

K: 大間は知ってる方結構いらっしゃると思うんですよね。年始に、初競りがあって。テレビとかでもマグロの特番がやっていたり。大間っていうところを1つ例にあげるとすれば、大間で捕れたマグロっていうのを一口に言っても、大間でも一本釣りっていう漁法や、延縄(はえなわ)と呼ばれる漁法があります。それぞれの漁法で、水深、僕らは「タナ」っていうんですけれども、マグロが泳いでいるタナの深さが違っていたりして。捕れるタナが違うと、そのマグロが食べてるものも自ずと変わってくるんですよ。餌となる小魚も、浅瀬を泳いでいる魚と、深海にいる魚とでは魚種も違います。だから同じ大間で捕れてきた魚でも、その一本釣りの魚と延縄の魚とでは大きく味わいに違いが感じられます。

A: 深いところで捕れる魚の方が美味しいって勝手に思いがちですけど・・・

K: そういうわけでもないんですよ笑。世間一般でいうところの、深いところにいる魚っていうのは、いわゆる深海魚とかっていわれるような魚です。脂はあるんですけど、味わいや香りと呼ばれるようなものが弱くなる傾向にあります。全部が全部そうではないし、個体差もあります。もしざっくり分類するとすれば、延縄は脂があって香りが弱い魚が多い。

A: プロの仲卸者として大切にしていることはありますか?

K: やっぱりマグロを食べることはすごく意識してますね。やっぱり食べ物である以上、僕らもそこのプロとしてやるときは誰よりもマグロを食べて、マグロの味を知らなければ「これ美味しいよ」とお客様にマグロをお売りすることができないと考えています。

「いや、マグロはもう商売で散々毎日触ってるから食べたいとは思わないよ」みたいな方もやっぱりいらっしゃいます。僕は真逆で、誰よりもマグロを食べて、誰よりもマグロの味を知って、その上でお客様に「マグロが美味しいんです」と言えることが説得力に繋がると思っています。あと、僕、純粋にマグロを食べるの、大好きなんですよね。

A: ナチュラルに好きな人。一番強いですね。

K: マグロをたくさん食べられる環境にいるので・・そんなのもう幸せでしかないですよね。

A: 情熱を注いでやってることで、最終的に幸せを感じられるなんて素敵ですね。
豊洲市場のこと、仲卸業のこと、自分のことなど、期待や展望みたいなことを最後に教えてください。

K: 日本人に生まれたからには、日本人らしい人生を送りたいと思っています。それが起点となって、マグロの仲卸っていう職業に就いたんです。死ぬ時に「マグロ屋になってよかったな」って思える人生にしたい。マグロっていう食べ物、人を幸せにする力があると思うんですよ。お寿司っていう食べ物がそうだと思ってるんです。日本って文化的にお寿司が非常に身近にあるじゃないですか。小さい時とかも家族でお祝い事とか、何かの節目とかで食べられることが多いし、みなさん食べてきてると思うんですね。

A: はい。

K: 誕生日の時に食べるケーキみたいな、そういうなんか人を幸せにする食べ物だと思ってるんです。その中でもマグロって、お寿司っていう食べ物の中の花形のお寿司ですよね。たとえば、お寿司のぬり絵を、いろんな方に配ったとき、クレヨンやマジックを渡して、「ちょっとなんか自分の思うお寿司の色に塗ってください」って言ったら、結構赤く塗る人いると思うんですよね。

A: うーん!笑 確かに。

K: はい笑。なんかそれぐらいマグロって僕、お寿司にとってマストな存在だと思うんですけども、それに関われて、ましてやお取引先のお客様っていうのが日本でも本当に一流の方たちで。日本のトップでやられているお店の方々に自分たちが選んだマグロを納めさせていただいて。そこに食べに来られるお客様はきっと何か色々なシーンがあって。マグロっていう食材ってそこでその人を感動させる力がある食材だと思っているので、まぁ僕らは実際にその、食べ手の方が口にマグロを入れて、うわ美味しいって幸せな顔をしている瞬間っていうのは残念ながら直接見ることができないんですけれども、でもその見えない先で人を幸せに、笑顔にしまくりたいなって強く思っています。

A: 久保埜さんってやっぱり大迫さんの特殊なレーダーに引っかかる魅力的な人でした。今日は色々と熱を伝えて頂きありがとうございました。

K: こちらこそありがとうございました。またお会いしましょう。

インタビュー・写真 : 足立公平