出会いと印象。

大迫: 最初に出会ったのはここ「終りの季節」という名前のBARですよね。

榛葉: そうですね。

大迫: 共通の知人の紹介ですね。

榛葉: その後久しぶりに再会した時に、ちょうど「感情」(お店)ができた時に遊びに来て くださったんです。鴨焼きと蕎麦のお店をやっていて、日本刀を作るための原料の「玉鋼」を厚み数センチの鉄板に仕上げて、熱々になった鉄板の上で鴨焼きを1枚ずつ焼くスタイルの和食店をやっています。そこに大迫くんが来てくれて再会しました。

大迫: そしてご飯に誘ってもらったことがすごく嬉しくて、一緒に行きました。その時、 エゴについて話した記憶があります。すごく哲学的だなって思いました。自分自身が知らない世界なので、その話をもっと聞いて知りたいなって思いました。

榛葉: 初めて連絡を取り合ったのがLINEとかじゃなく、お渡しした名刺に書いてある僕の G-mailへ丁寧なメッセージをくれて。「一流だな」って思いました。名刺ってただのカードなんで、もらうだけで終わっちゃうことってあると思うんです。 そこに小さく記載されているG-mailアドレスに、飲んだワインの感想を送ってきてくださって、素敵過ぎるなと思った記憶がありますね。

承認欲求について。

大迫: 基本的に人は自分を認められたいところがあると考えます。そのために僕は走ってるし、榛葉くんだったらワインを追求してるのかなっていう話などをしました。

榛葉: 承認欲求とか、エゴみたいなことは常に僕も考えていることです。このお店を始めた時も今も思ったりしますが、自分の原動力とか、強い思いとかってどこから来てるのかなと。「怒り」が自分の中には強いのかなって思うことが多くて。世の中に対してとか、飲食業界に対してとか、 怒りみたいなものがここ数年間ずっとある。でも承認欲求みたいなものを捨てたい。有名になりたいわけでもない。自分はお客様を目の前にして、全力でパフォーマンスするのが仕事だなと思っています。怒りが原動力になって新しいお店を出すという感じがあります。でもチームが少しずつ出来上がってきて、怒りの感覚が少し変わってきた気がしています。 ただの怒りじゃなくなってきたと思います。
チーム(スタッフ)が強くなっていければ、自分もその中の一員として携わっていくことによって少しでも喜びとか、楽しさとか、美味しさとかを伝えていけたらいいなっていう風に思っています。新しいお店はちょっと優しいお店にしたいな、なんていう風に漠然的に思っています。お店の名前は、根が深いって書いて「根深」といいます。目に見えるもの、表層的なことじゃなく、見えない根っこがいかに深くあれるかを大切にしたいと思い、そう名付けました。
今まで見た目を気にしていたところがあります。例えば、お店の内装。新しいお店も見た目は大事だと思いますが、どちらかと言うと僕たちの心の中にあるものとか、根っこをどれだけ深くしていけるかみたいなものをコンセプトとしています。世の中や業界に対しての怒りはありますが、原動力が少し自分の中で変わってきた感覚があります。いい変化だと捉えています。

Why wine?

大迫: あらゆるリカーの中でなぜワインを選んだのかな。色んなお酒を知ってると思いますけど、でもやっぱり一番ワインがお好きなんですよね?

榛葉: もともとこの世界に入ったのはちょっと早かったんです。バーテンダーの仕事をスタートして、ウイスキーにのめり込みました。初めて行った海外はスコットランドで、たくさん蒸留所を回ったりしました。とあるきっかけでフランス料理店に転職することがあり、そのフランス料理店で出会ったお客様に、色んなワインバーに連れて行ってもらう機会があって。そこで飲んだワインに心震わされました。脳が揺れる感覚。もちろんウイスキーにも良い思い出はたくさんあります。でも美味しいワインって、香りがすごくて記憶に残る。

「終りの季節」という店の名前。

榛葉: レイ・ハラカミの「owari no kisetsu」を最初に聞いたのがきっかけだったんです。僕が修業していた新宿の雑居ビルにあるバーなんですけど。週末の空間がごちゃごちゃしていて「忙しいな」って思っている瞬間に、レイ・ハラカミの「owari no kisetsu」が流れたんです。その音楽が流れた瞬間に、パキって瞬間が止まったんですよね。その瞬間がどこかかっこよくて忘れられなくて。その瞬間がかっこよくて。いつかこんな空間を切り取りたいなっていう思いがあって、独立する時は「終りの季節」という名前にしようって決めていました。

大迫: 鴨焼きとお蕎麦の店「感情」とかもそうなんですけど、ネーミングセンスが凄いありますよね。「感情」は何で感情なんですか?

榛葉: 「感情」は、 今AIの時代に突入していて、ゆえに機械的じゃない仕事がいいなとか考えています。 「感情」がオープンする2年前ぐらいの時から、人間らしい仕事って何だろうって常日頃から思っていて。日々移り変わる気持ちとか感情とか、そういった部分なんじゃないかなと考えて。 お店の入り口に、紙ペラの看板があるんですけど、それも手書きで「感情」って書いていて。その日の感情のまま、手書きで書くのがいいと思ったんです。

大迫:  メニューとかも原稿用紙の、めちゃくちゃいい感じなんですよね。

榛葉:  原稿用紙に日替わりで、スタッフが手書きでメニューを書いています。 手書きって、気持ちが届くじゃないですか。 何でもかんでも便利な世の中になってるんですけど、少し遠回りしたかのようなお店作りをしたかったんです。真っ白のキャンバスというよりかは、 暖かさとか、そういったものがいいなって思って。ちょっと使い古した具合が可愛かったりするんで。 しゃきっとしてるというよりかは、少し柔らかい雰囲気を持ってたいなと思って。

感覚や感性を磨く場所。

榛葉: 日常ですかね。昔は同業者にも嫉妬していました。最近その感情がどんどんなくなってきて、自分は幸せに今仕事ができてると感じています。それはなぜかと言うと、好きな人しか、ここに来ないっていうことが理由なのかもしれません。日常的にすごい刺激がここには詰まっているように感じれます。集まってくださる人たちのおかげだと思います。大迫くんも僕に刺激を与えてくれる1人です。そういう人からの感性みたいなものが元気玉みたいに集まってる感じがします。

大迫: SNSとかを見ていると、みんなから好かれようとする傾向にあるように思います。だけど結果、自分の好きな人と何かやっていくことが幸せに繋がるかもしれませんね。その途中で新しい人は入ってきたりしますけど、似た感性や感覚の人たちが入ってくるコミュニティーを自ら作れているんでしょうね。

榛葉: この店は空間も大好きな建築家に作ってもらっています。でも何が自慢かと言われると、1番はお客様かなっていう(ワインも料理も気持ちを込めてるけど)。この店が今も生き残ってる理由を考えると、本当にお客様が刺激的で、 素敵な人ばかり集まってるからだと思います。子供の時から、何をやってもできたとかってタイプではなく、むしろ何もできないタイプです。 勉強もできなかったですし、スポーツも正直全然ぱっとしない。楽器とかもやったことがない。ただお酒が好きで飲み続けてたら、今日この場所に立っていたみたいな感じです。

自分を嬉しくさせる、何か。

大迫: 勿論おいしいお酒を飲んで、色んな人と話してっていうことは、分かりやすく自分の中で幸せなんですけど。もっといいのは、一人で向かってる時だなって。自分自身にいい意味で酔えるというか。東京にいると、自分がやってることも、自分と何かを比べてしまう。アメリカにいると、自分だけの世界で比べることなくやっていけます。自分の中の達成感に陶酔できるみたいな感じがある。結局はそれを積み重ねれば、成功につながるのかなと思います。

榛葉: 僕は強がりの寂しがり屋です。 大迫くんは強がってもないし、寂しがってもないように見えます。ナチュラルに自分と向き合ってる。何かの投稿で、大迫くん自身が何かに依存しないという内容を目にしました。例えばトレーナーさんとか食事とか環境とか。 そういったものは自分がその場にadaptしていくとおっしゃっていました。そういう決断や考え方に感動した記憶がありますね。

大迫: 僕、いつも身軽でいたいからという理由で荷物を持たないんです。ちなみに榛葉くんは幸せや喜びについてどうですか?

榛葉: ここで仕事してる時は好きな人が来てくれるだけで凄い幸せを感じますね。「感情」というお店ができてから、自分の心の変化が生まれました。チームが強くなっていく姿みたいなのが凄く嬉しいと感じています。 たまたま自分がきっかけになって生まれたお店ですが、今はその店にはそれほど携わっておらず、それでもたくさんの方々に評価をしてもらって、レストランとして予約も埋まっています。 広告をバンバンうってる訳でもなく、人伝えで、ちゃんと評価されるようになっています。コツコツやってきてよかったと思います。そのことが凄く幸せです。あと、自分が強くなりたいと思っていたんですけど、チームが強くなってきてくれて、僕がより強くなれるという良い流れがあります。ここで一人で仕事をしてきたので、孤独な気持ちにもなった時期もありましたが今はチームの強さみたいなのを感じる。そのことにも喜びを感じます。

榛葉: 最初は自分が好きなことだけをただやっていけばいいと思ってました。小さなお店を作って、好きなワインを好きな人に出すという仕事だったんです。今は新しいお店ができたりして、これから自分がどういう目標を持ってやっていこうかなと考えています。成功とは何かって思った時に、今はONLY ONEでいることだと考えています。今、色んな店があるんですけど、自分にしかできないものって何かっていうのを追求してきて、ONLY ONEを今やってるつもりです。ですが 世界で通用するビジネスって何かなとかっていう風に最近思うようになってきて。実はそのコンテンツみたいなのを今準備中だったりしてて、ビジネスの世界に挑戦してみたいと構想を練っています。「終りの季節」とか「感情」とかっていうのはお客様からお代をいただいて自分達は生活をしています。果たしてこれってビジネスの世界とはちょっとまた違うのかなと。社会に貢献できているのか?たくさんの雇用を生んでいるのか?などよぎります。世界中の人に知ってもらえる何かを作るために、さらなる強さやエネルギッシュな空間や組織みたいなものを築きたいという想いがあります。それで世界に挑戦するようなお店作りができたらなっていう風に思います。それができた時は凄い幸せを感じて、成功っていう感覚に近いものになるんじゃないかなって思います。

大迫: 僕自身もアウトプットの引き出しを増やす必要があると思いますね。引き出しを増やしていくような考えやアクションによって、幸せが続くと思います。考えていくべきフェーズにいるんだなっていうのは、榛葉くんの話を聞いて思いました。

榛葉: 大迫くんはただのランナーと言うとあれですがw、記録を残して人と競争する仕事もしながら、外部の仕事もしていますよね。 それって凄くかっこいいと思います。

大迫: 自己承認欲求なのかもしれないですけど、自分の考えてることをみんなに知ってもらいたいとか、理念と哲学みたいなところを、いろんな人にも持ってもらいながら広げていきたいと考えています。

新しいお店はどんな店。

榛葉: 次のお店は、アラカルトのビストロにしようと思っています。 この店を手伝ってくれている小林という人間がそこでシェフをやります。 昨今の料理屋さんって、高単価で映える少し派手な料理が多いなって思っていて。 おいしい野菜をちょっと切っただけとか、 おいしい野菜を焼いて、ポンっと出てくるみたいな。素材の力を感じるような料理を作っていきたいなってシェフは思ってるみたいです。 この後召し上がっていただきたいんですけど、北海道のとても素敵な農園(北海道余市・雉子谷農園)があるんですけど、そこから届いたズッキーニとか、焼いただけで凄いホクホクな旨みがあったりとか。 野菜ひとつでワインに凄い合うんです。

昨今、多くの料理屋さんが高級志向で、高単価過ぎてしまうと感じています。僕たちができるほど良い店、優しいお店にできたらなっていう風に思ってます。何かを壊したい、変えたいというような気持ちが僕の中にはあるかもしれませんね。

大迫: みんなが向かってる方向は正しくないケースも多いですよね。だからアンチテーゼ的に裏側を見てみるとわりと正解だったりします。本当のことって言っちゃいけないことが多いですからw。
表に出てるものって偽物が多い。正解、不正解はないと思っています。

終りの会話

大迫: いつも行くお蕎麦屋さんが一緒だったりします。僕も帰国したら必ず行くお蕎麦屋さんです。「おそばの甲賀」っていう西麻布の交差点にあるんですけど。季節物を出すんですよね。すごく美味しいですけど、榛葉さんはずーっと鳥南蛮を食べ続けてて。

榛葉: 鳥南蛮だけを食べ続けてるんですよ。

大迫: 今日の鳥南蛮の状態がわかるみたいな話をしてて。

榛葉: ネギの季節ごとの味わいとか、鶏油の具合とか。 何でも気づきがあるのは、日々向き合ってるからですかね。そんな話を大迫くんとしたりしてます。

大迫: 走ってるのと一緒なのかなと。ルーティーンがあるからこそちょっとした違いに気づけるというか。

榛葉: 僕が勢い良く蕎麦吸ってたりすると、すっと隣に座って、ふらっと見ると大迫くんだったりして。大迫くんって気づく前に注文を聞いた時があって、当時「せりそば」がオススメにあって、「せりそばに、せりトッピングで。」って発言してる人がいて、「誰それ!」って思って見たら大迫くんで。せりそばに、せり!?って。

大迫: どうしてもせり食べたくて。美味いじゃないですか。自分の中ではせりを追加するっていう頭しかなくて。注文する時になぜか「せりそばにせり追加で」って言って。店員さんに「え?」って言われましたが。でも引けなくて。

大迫: また近いうちに飲みにいきましょう。

榛葉: その日空いてます!

大迫: その日空いてますって、パワーワードですよね。使おうっと。

新しい店の情報:
店名:根深
INSTA:https://instagram.com/nebuka_tokyo?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA==
2024年2月中旬にオープン予定です。

写真:金子桃子 (Momoko Kaneko)