長野県湯の丸高原で合宿中の大迫傑がトレーニングの合間を縫って向かった先は同県内北部に位置する信濃町。野尻湖や黒姫高原といった自然の美しい町だ。
この日、大迫は早稲田大学の同級生でもあり、2022年北京冬季オリンピックのクロスカントリースキー競技で日の丸を背負った宮沢大志の元を訪れた。宮沢は2018年よりこの信濃町をトレーニング拠点として選び、2022年3月の現役引退後もこの地で後身の育成に勤しんでいる。

地域課題を見つけ、自分達が解決できる方法を探る

今回大迫が信濃町に向かったの理由は宮沢と一緒に進めようとしている信濃町の地域創生プロジェクトのためであった。
大迫が宮沢と落ち合い、挨拶もそこそこに二人は信濃町でとうもろこし農園を経営する小林茂さんの元を訪れた。今回の訪問目的はとうもろこし農家の課題を直接ヒアリングすることと畑の見学である。
小林さんの育てるとうもろこしは糖度が高く、道の駅や都内の高級スーパーでも人気の商品であるという。しかしながら、日によって収穫量が異なり、観光客の多い土日にたくさん収穫できるとは限らない。瞬く間に商品が無くなってしまうこともあれば、鮮度が短いとうもろこしは出荷したほとんどを廃棄しなければならない日もあるという。
大迫と宮沢は廃棄せざる得ないとうもろこしを加工食品として販売することにより、信濃町のとうもろこし農家が直面する食品廃棄の課題を解決できないかと模索している。

アスリートの強みを地域創生に活かす

大迫・宮沢は共にアスリートとして世界で戦ってきた経験を持つ。二人は日本の外に出ることによって、外の世界から日本を客観的に見ることができたと口を揃える。大迫は日本を外から見ることで、日本の景色・料理・物づくり・文化・地域資源など日本にいると当たり前に感じるものに非常に大きな価値があることに気づかされたと言う。
また、Sugar Elite Kidsのプロジェクトとして日本各地の自治体を訪れ、現地の方と直接コミュニケーションを取る中で地域の持つ課題も耳にしてきた。
この2つの体験が交差し、大迫はアスリートが持つ発信力や影響力の大きさ・シンプルに競技と向き合ってきたからこそ形成された強い軸・スポーツというアクティビティを通して共有できる体験やメッセージ・これらアスリートが持っているアセットを活かしてできる地方創生の形があるはずだ考えるに至った。
「アスリートとして地域の持つ魅力を伝えたり・体験してもらう機会を作ることで、子供たちも自分たちの住んでいる土地の魅力を認識し、愛着や誇りを持ちつようになる。若い担い手が生まれ育った土地から離れ、地方に元気がなくなっていくという課題も解消の一助を担えるのではないだろうか。」

「アスリートらしさ」は色々あっていい

現役を引退して間もない宮沢はこれから先のキャリアを考える中で、「アスリートの経験を活かして、地域に還元できることはたくさんあるのでは」という大迫のアドバイスに影響を受けたと言う。
大迫はマラソンランナーとして競技を続けながら、起業家としての顔も持つ。Sugar Eliteというアスリートの育成事業・SKETCH BOOKのメディア運営事業・The Fstのレース運営サポート事業など競技と並行して複数の事業を主体的に手がけている。事業を競技の言い訳にできないというプレッシャーもあるが、事業には競技とは違った楽しさもあるという。宮沢のキャリアに対するアドバイスは大迫が今まで競技と並行して事業にも挑戦してきた経験に基づくものであった。
海外挑戦など長距離陸上選手としての前例のない挑戦をしてきた大迫ではあるが、今後は競技のみならずアスリートとしての生き方におけるロールモデルになるのではないだろうか。「今後は僕らのやっているような地域創生活動を他のアスリートが手掛けたり、様々な地域からも似たような取り組みがどんどん生まれても良いと思う。パイを奪い合うという考え方で無く、みんなで新しいマーケットを創造できたらいい。」とも語る。
個の時代と言われる今日、10人いれば10通りのアスリート像があってもいい。時にはとうもろこしについて熱い議論を交わすアスリートがいても良いのではないだろうか。